四国遍路の巡拝の方法で、阿波国(徳島)、土佐国(高知)、伊予国(愛媛)、讃岐国(香川)の各国内の札所を巡拝することを「一国詣(参)り」といいます。
四国八十八箇所霊場の阿波の札所第1番~第23番までを巡る「阿波一国詣り」の案内パンフレットがあります(写真①、個人蔵)。阿波国共同汽船株式会社が昭和14年(1939)以前に発行したものと見られ、菅笠、金剛杖、札箱、さんや袋などを身に着けた絣着物姿の女性遍路が表紙を飾っています。裏表紙には「信仰のハイキング 阿波霊場巡り」と題して、 徒歩を中心に汽車やバスを利用して6日間で徳島の霊場を巡る行程が参拝略図とともに紹介されています。


阿波一国詣りの道程について確認してみましょう。
・第1日(第1番霊山寺から第10番切幡寺まで)
平たんな道が約6里続き、10箇寺を巡拝します。第6番安楽寺までは汽車(徳島線)とバスの便があります。第6番~第10番まではバスの便があります。切幡町で宿泊。
・第2日(第10番切幡寺から番外霊場の柳水庵まで)
切幡寺から徒歩で吉野川を渡り、第11番藤井寺を参拝します。焼山寺への登山道に入り、途中の柳水庵で宿泊。
・第3日(柳水庵から第12番焼山寺を参拝し、徳島市内まで)
柳水庵を早朝に出立し一本杉を経て焼山寺、杖杉庵を参拝し寄井の町まで徒歩、寄井から徳島市までバスの便があります。徳島市内の旅館泊、市内観光。
・第4日(徳島市を立ち、第13番大日寺から第19番立江寺まで)
徳島市内からバスで第13番大日寺へ、そこから徒歩で第17番井戸寺(妙照寺)までを巡拝、バスもしくは府中駅から汽車で中田へ行き、第18番恩山寺、立江寺を巡拝します。立江寺泊。
・第5日(第19番立江寺から第21番太龍寺まで)
立江寺からバスで中角まで行き、徒歩で第20番鶴林寺を参拝、那賀川大井渡を渡り、再び登山して太龍寺を参拝します。太龍寺泊。
・第6日(第21番太龍寺から番外霊場の龍の窟を拝観し、第23番薬王寺まで)
太龍寺から南へ下り、龍の窟を見学、新野町へ。第22番平等寺を参拝してバスで日和佐町へ、薬王寺を参拝。阿波一国詣り終了後は、小松島に戻り帰途に就くか、次の高知の霊場第24番最御崎寺へ進む場合はバスを使用します。
昭和13年(1938)の四国遍路道中図(渡部高太郎版、当館蔵)を用いて、阿波一国詣りの行程を日程ごとに記載しました(写真②)。阿波の遍路道は、1日目は平坦な道で多くの札所を巡拝できますが、2日目から3日目にかけての焼山寺の登山道、5日目から6日目にかけての鶴林寺から太龍寺までの道程が険しい山道の難所で、吉野川と那賀川の川渡りなどが見られるのが特徴といえます。

パンフレットでは、四国遍路の全巡拝路を4区分し、1年で1区(5~6日)ずつ巡れば4年で四国遍路を達成できると説かれています。発行元の阿波国共同汽船株式会社は、明治20年(1887)に徳島の藍商人等による共同出資で設立されました。関西方面などからの遍路の誘致に地元の海運会社の果たした役割が注目されます。
昭和初期における徳島県内の海上・陸上交通の状況を示した案内広告があります。昭和9年(1934)の『四国霊蹟写真大観』(当館蔵)の巻末に収録する「阿波案内」(写真③)には、摂陽商船株式会社と阿波国共同汽船株式会社の共同経営による徳島の海上交通の広告が掲載されています。そこには「小松島港」「二十八共同丸」の写真とともに、大坂、神戸、明石、和歌山、淡路島、鳴門海峡、高松、引田、撫養、徳島、小松島、橘(阿南市)などの各港を結ぶ同社の航路が蒸気船のイラスト入りで紹介されています。共同汽船の営業所がおかれた小松島を拠点にした徳島の海上交通網の広がりがわかります。

また同書には「阿南自動車協会」の写真入りの広告(写真④)も掲載されています。同協会の本社前には行先表示のある乗合自動車が整列し、「阿南自動車徳島支店」と記された大きな看板には同社の支店や出張所等が記載され、徳島県内はもとより高知、香川方面への乗合バスの路線が開通している状況が見て取れます。

今日、四国遍路の巡拝方法は伝統的な通し打ち(一度の巡礼ですべてを巡拝)、区切り打ち(都合の良い札所だけを巡拝)、みだれ打ち(札所番号には関係なく巡拝)などが行われていますが、「阿波一国詣り」のように四国遍路を分割して巡拝する方法は、最終的に全札所を打ち終える分割巡礼の代表といえます。
昭和初期に推奨された阿波一国詣りは、四国遍路を取り巻く海上・陸上交通の発展によって、伝統的な修行を基本とした徒歩中心の巡拝から、文明の利器である近代交通を積極的に活用して、名所旧跡や市内観光などの行楽的要素も採り入れ、計画的且つ効率よく札所を巡拝するという現代の四国遍路の巡拝の先駆けとして注目されます。















































