Archive for 6月, 2008

日本の文様―文様になった生きもの達―(6)蟹

2008年6月29日

(6)蟹(かに)-魚介類の文様-

 「近くで見なければわからない型紙シリーズ第二弾」です。目がちかちかするような型紙ですね。蟹なんかどこにいるのでしょうか?

染型紙 蟹 大西金七染物店蔵(四国中央市川之江町)

 染型紙 蟹 大西金七染物店(四国中央市川之江町)

こんなにたくさんいました。

拡大

 蟹はそのゴツゴツとした姿形や動きの面白さから文様のモチーフに取りあげられてきました。
 四方を海に囲まれた日本では、蟹以外にも、海老や蛸(たこ)、貝類などの魚介類を文様としてデザインに取り入れています。
 また、いかりや網など、漁に関わる道具の文様も、愛媛の型紙には残されています。
 それにしても、そばに寄らなければ何の文様かわからないようなきものを身にまとった、粋な御仁はどんな人だったのでしょうか。

南予の中世城跡探訪13 西園寺氏の本拠 ―松葉城跡・黒瀬城跡―

2008年6月28日

 中世の南予地域の領主としてよく知られている一族に西園寺氏がいます。伊予知行国主で、宇和荘荘園領主でもあった京都の公家西園寺氏の分流が、伊予へ下向し土着したと考えられています。宇和盆地を本拠に宇和郡内に広く影響を及ぼしました。その西園寺氏が本城としていたのが、松葉城・黒瀬城です。


  松葉城跡

 松葉城は、西予市宇和町の卯之町の北、松葉地区にあります。黒瀬城は、そこから卯之町の市街を挟んで南へ約2kmの所にあり、JR卯之町駅の裏手真正面に見えます。両城とも尾根を利用して、おおまかに3段の曲輪を中心に構成されていますが、松葉城が岩場の狭い尾根に造られているのに対し、黒瀬城の方が曲輪の規模も大きく、数も増え、より堅固なものになっています。西園寺氏は、当初松葉城を本拠としていたのを戦国時代に黒瀬城に移ったといわれていますが、その裏付けの一つになります。
 西園寺氏は、宇和郡内に一族がいくつか分派し、立間・来村・竹林院などと呼ばれる一族が出ましたが、この松葉城を本拠とした家はその名を取って「松葉殿」と呼ばれ、また自らも「松葉某」と称し、黒瀬城に移ったといわれる戦国末期になっても、滅亡を迎えるまでそう称していました。


  黒瀬城跡

 有名な西園寺氏ですが、実はその活動を物語る当時の確実な資料は極めて少なく、後世の記録類などを基に語られる部分も多く、いまだ謎の多い領主です。系譜関係すら明確には定まっていません。その大きな要因は、家が滅亡したことにあるでしょう。天正13(1585)年の四国平定の後、伊予は小早川隆景の支配するところとなりますが、その時の当主公広はまだある程度宇和郡での影響力を維持していたようです。しかし、天正15(1587)年に秀吉子飼いの戸田勝隆が南予を拝領して入ってきた時、旧勢力の西園寺氏はその力を否定され、滅ぼされてしまいます。「清良記」の記述では、公広が戸田に呼び出されてだまし討ちにあったとされています。


  光教寺

 卯之町の中町(なかのちょう)の開明学校(国指定重要文化財)の隣には、西園寺氏の菩提寺である光教寺があります。寺の墓地内には、公広の廟所があり、今も大切に祀られています。ちなみに、当博物館も卯之町にあり、黒瀬城の向かいの山腹に建っているため、展示室から頂上部を眺めることができます。


  当博物館の展示室からの遠望
  右端、木々の上にわずかにのぞく高みが黒瀬城の頂上部

博物館資料の虫菌害防除対策2

2008年6月27日

当館におけるくん蒸作業の範囲については、平成19年度に歴史収蔵庫で行い、20年度は文書収蔵庫にて実施しました。考古・民俗収蔵庫については、21年度以降に順次行うこととし、今回、虫菌駆除の緊急性の高い歴史・考古・民俗資料は、文書収蔵庫に移動させることで対応しました。

使用する薬剤は、エキヒュームSです。これを室内に充満させることで虫菌駆除をし、活性炭を使用・通過させることで薬剤の濃度を安全基準内に下げた上で排気しています。


※排気の際にガス吸着で使用する活性炭タンク

なお、薬剤によるくん蒸による虫菌害防除作業の他に、当館では万一の害虫発生を早期発見するため、モニタリング調査を行っています。当館のそれぞれの展示室内や収蔵庫内において、タバコシバンムシやイガ・コイガ等の文化財害虫発生が発生した場合、早期に発生状況を把握するため、文化財害虫用のトラップを設置し、定期的に回収して検査を実施しています。

このように害虫の生息数を連続して監視するとともに、大量発生を未然に防ぎ、博物館資料の保存につとめています。

博物館資料の虫菌害防除対策1

2008年6月26日

6月22日(日)夕方から本日26日(木)早朝まで、館内では虫菌害防除のためのくん蒸作業を行っていていました。そのため、24日(火)・25日(水)は臨時休館とさせていただきましたが、利用者の皆様にはご迷惑をおかけしました。

当館では、愛媛県内の歴史・民俗・考古・文書に関する資料を約40万点収蔵していますが、その90%以上を収蔵庫内にて保管しています。収蔵資料への虫菌害は、虫菌の繁殖とともに被害が急速に拡大するため、資料を集中的に保管している収蔵庫において、虫菌害の発生を防止する必要があります。


※くん蒸前の収蔵庫の目張り作業

そこで、虫菌害防除のために収蔵庫内のくん蒸作業を行うことによって、長期にわたる収蔵資料の保存・管理・継承が可能な資料保管体制を確立することができます。ひいては資料管理体制の信頼性から、県民からの資料寄贈・寄託の件数増加が期待できる等、資料収集や展示活動にもつながります。

このように、くん蒸作業は博物館活動に欠くことのできない作業であり、毎年、虫菌害の発生しやすいこの6月に、作業を実施しているのです。

日本の文様―文様になった生きもの達―(5)蝶

(5)蝶(ちょう)-ミステリアスな魅力-

 蝶の文様が好まれる理由として、姿の美しさ、華麗さに加えて、その変化の様子から感じられる神秘性があげられます。青虫からさなぎへそして、成虫となって羽ばたく姿に、人々は驚嘆のまなざしで見つめたことでしょう。
 日本では平安時代中期以降に「向い蝶」など有職(ゆうそく)文様として取り入れるようになりました。
 型紙では、丸っこく単純化された蝶が、愛らしく花の間を飛び回っています。

染型紙 蝶 大西金七染物店蔵(四国中央市川之江町)

染型紙 蝶 大西金七染物店蔵(四国中央市川之江町)

 型紙の右下に黒い印があります。これは、型紙を販売する商人の印(はんこ)であり、ここから名前や所在地や屋号などの情報を読み取ることができます。
 染型紙は、江戸時代、伊勢(現在の三重県)で生産や販売が盛んだったことから「伊勢型紙」とも呼ばれます。この型紙も、伊勢から伊予まではるばる運ばれてきたことがわかります。

24日(火)・25日(水)は臨時休館日です。

2008年6月22日

ホームページや県広報誌にて、お知らせのとおり、

愛媛県歴史文化博物館では、収蔵庫内に保管している資料を

虫菌害から守るため、館内にて燻蒸作業を実施します。

そのため、6月24日(火)・25日(水)の2日間は、

臨時休館とさせていただきますので、ご了承ください。

日本の文様-文様になった生き物たち-(4)芭蕉

(4)芭蕉(ばしょう) -大きな葉-

 芭蕉は、葉が1~2mの大きさになる多年草です。スリットの入った面白い葉のかたちをしています。実はバナナに似ています。

 芭蕉の文様で多いのは雪との組み合わせです。亜熱帯の植物で冬には枯れる芭蕉と、雪との組み合わせは、奇特あるいは無常観を示しているとされます。型紙でも霰地(あられじ)の白い点を雪とみることもできます。

染型紙 芭蕉 個人蔵(伊方町)

染型紙 芭蕉 個人蔵(伊方町)

日本の文様―文様になった生きもの達― (3)柳

2008年6月20日

(3)柳-季節を語る-

染型紙 柳 光岡染工場蔵(松山市中島町)

染型紙 柳 光岡染工場蔵(松山市中島町)

 芽吹き柳に飛ぶ燕とが組み合わされた春の文様です。
 柳は、風になびいて枝垂れる様子が好まれ、「動き」も表現できる植物の一つです。冬には雪持ち柳、春には花や燕とともに取り合わされて、季節を語る文様でもあります。

日本の文様―文様になった生きもの達― (2)なすび

2008年6月19日

(2)なすび -身近な素材-

 「近くで見なければわからない型紙シリーズ第一弾」です。一見すると小さな水玉のように見えるかもしれません。

染型紙 なすび 若松旗店蔵(八幡浜市)

染型紙 なすび 若松旗店蔵(八幡浜市)

 近くで見るとなすびが散らされた文様がわかります。丸々としたなすびの形がリズムよく配置されています。

拡大

 この型紙の大きさは縦が247mm、横が405mmあります。染型紙はおおまかに言うとA3サイズの紙ぐらいの大きさです。もちろんもっと幅が狭い型紙や、大きな型紙もあります。
 文様では、野菜のように生活の身近な題材を取り上げたものも見られ、なすびの他に、唐辛子などをデザイン化した型紙も、愛媛には残されています。

日本の文様―文様になった生きもの達― (1)瓢箪

2008年6月18日

 古来より、動物や植物などの生きものは、陶磁器や衣服といった身近なもののモチーフとして取りあげられてきました。そこには、生命力溢れる動物への憧(あこが)れや美しい花を咲かせる植物への慈(いつく)しみが込められています。
 愛媛県歴史文化博物館では、愛媛県内に残された「やきもの」や「染型紙(そめかたがみ)」(きものや陶磁器を染める際に使用する道具)について調査を行っています。
(詳しくは企画展図録「ときめくファッション-小町娘からモダンガールまで-」をご覧下さい)
 愛媛県内に残された「染型紙」の中から、取り上げられた動植物についてご紹介します。

 染型紙とは和紙を柿渋で貼り合わせた丈夫な紙です。この紙に、色々な文様を彫りぬくわけです。出来上がった型紙を布の上に置き、上からのりを置きます。そして布を染めると、のりを置いたところだけ(つまり文様だけ)白く染め残るわけです。
 「やきもの」や「染型紙」は、生きもの達のユーモラスな姿や美しい造形を創造の源とし、巧みな技術で製作されています。見事にデザイン化された染型紙から、文様の面白さに触れていただければ幸いです。

 瓢箪(ひょうたん)-くびれの魅力-

 真中がくびれ、丸々とした瓢箪。その形の面白さから絵に描かれることも多く、文様にも取り上げられてきました。瓢箪は中身を出して乾かし、水やお酒を入れる容器としても人々に親しまれてきました。六つの瓢箪を描いて「六瓢」(むびょう)、つまり「無病息災」を願う文様もあります。

 この型紙では、白抜き、輪郭、陰影の3パターンで瓢箪が彫りぬかれています。そのコントラストによって、瓢箪のフォルムの面白さをうまく生かした文様です。

瓢箪  個人蔵(伊方町)

染型紙 瓢箪 個人蔵(伊方町)