85番札所、八栗寺を後にした西丈は、86番の志度寺へと向かい、志度村に辿り着く。志度は中世以来の伝統をひく海運業が盛んな土地で、松浦武四郎の天保4(1833)年の「四国遍路道中雑誌」には、家が千軒余りもあり、日々船の出入りが絶えることがなく、農業・商業も盛んと記している。そんな繁華な志度に来て、西丈が描いたものがかなり変。
穴が開いたブリッジ状の岩をはじめとした奇岩。その奇岩よりもさらに奇妙な生物が3頭。茶色の毛に覆われた体だが、人間でいう髪の毛がなぜか赤いロングヘアー。四ツ足のようだが、人間のように直立している姿も描かれている。これは実在する生物? それとも妖怪? 西丈が実際見たものか、あるいは頭の中でつくりだしたものなのか。
昔話か伝説に関係するのかもしれないと調べてみると、志度というと、「海士の玉取り伝説」が有名。天智天皇の時代、藤原不比等が契りを交わした志度の海女が、その子ども房前のために海中の龍神から玉を取り返して死んでしまうというストーリーであるが、この絵との関係はわからない。絵の右には和歌も書き付けられているが、難解で一部しか読むことはできなった。
謎は深まるばかり。それにしても西丈はおもしろい絵を描き遺したものである。その感性に脱帽。みなさんならこの絵、どう読み解きます?
当館では、企画展「四国遍路ぐるり今昔」が、2月18日~4月6日の会期で開催しています。本史料は展示されていませんが、四国八十八ヶ所霊場の今と昔の姿を多彩な資料で紹介しています。ぜひご覧下さい。