今治市相の谷1号墳の出土遺物(2)禽獣画象鏡と保存処理

2007年6月27日

処理前の画象鏡
処理前の画象鏡

 前期古墳に顕著な副葬遺物に銅鏡があります。銅鏡は被葬者の生前の地位や身分を示す威信財として副葬されたと考えられます。相の谷1号墳では、後円部の竪穴式石槨から2面の銅鏡が出土しています。
 今回紹介する禽獣画象鏡(面径12.6cm)は、鳥像と獣像をモチーフにした中国製の銅鏡の一種です。破片で出土し、約41片に分割していました。出土した状況については、調査に参加された正岡睦夫氏は「西壁の中央部よりやや南寄りに位置し、破片となって検出された。原位置を移動し、後に破砕されたものである。」とされています。どの段階で破片になったかは不明ですが、割れ方からは石槨内の撹乱時又は、土圧による破砕の可能性が強いと考えられます。
 今回の保存処理作業では、クリーニングの結果、新たに二文字の銘文を判読することが可能になり、更に獣像の表現が明確になりました。また、割れていた破片を接合し、欠損している部分は樹脂で復元しました。

処理後の画象鏡
処理後の画象鏡

 銘文については従来「作竟真大」が判読されていましたが、クリーニングの結果、「氏」と「山」が新たに判読することができました。その結果、「(龍?)氏作竟真大(巧上有)山(人)」という銘文を復元することが可能です。鏡の銘文は七言句をつなげるものが多く、類例から「(龍?)氏作竟真大巧上有山人不知老」の一部を省略したものと考えられます。 
 獣像の表現では、鳥像の羽根、嘴、頭部、脚部と獣像の脚部の表現がより明確となりました。獣像は脚部と胴部の表現から虎の可能性が高いと考えられます。
 この鏡の類例としては、福井県風巻神山4号墳出土鏡、福岡県野方塚原遺跡出土鏡、奈良県黒石山古墳出土鏡があり、日本出土鏡の中でも類例が少ない中国鏡です。近年の中国鏡の研究成果を援用すると、本鏡は2世紀後半から3世紀初頭に製作されたもので、製作地は華北東部に求めることができる資料です。
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