現在当館ではテーマ展「石鎚山 歴史と民俗」(~2月1日迄)を開催中です。本展は石鎚国定公園が昭和30年(1955)に指定されて70年の節目に、石鎚信仰が広く庶民に普及した江戸時代から、観光地としての開発が進む昭和にかけての石鎚山の歴史と民俗を紹介するものです。
西日本最高峰の石鎚山(標高1,982m)は、役小角が開山し、寂仙菩薩が「石鎚蔵王大権現」と称えて信仰し、神仏習合の修験道の霊場として栄えました。青年時代の空海も日本を代表する山岳霊場の石鎚山で修行しました。
石鎚山の中腹にある四国八十八箇所霊場第60番横峰寺(愛媛県西条市)と麓にある第64番前神寺(同)の両寺院は、神仏習合の江戸時代に石鎚蔵王権現の別当を務め、石鎚信仰とつながりが深い札所として知られています。
四国遍路においては、江戸時代の四国遍路絵図や近代の「四国遍路道中図」に石鎚山は四国のランドマークとして描かれています(本ブログ27「横峰寺への巡拝」、84「四国遍路絵図から見た石鎚山」、85「前は神、後は仏」の前神寺」参照)。
大正6年(1917)の四国遍路絵図(駸々堂版)では、石鎚山へは横峰寺から「一リ(里)」と記載されています(写真)。戦前における徒歩遍路のための詳細な案内記として定評のある、昭和9年(1934)の安達忠一『同行二人四国遍路たより』には、「寺(横峰寺)から暫し打戻って左へ山道を二町登りますと、大師が嵯峨天皇の勅を受けて一七日の間雨乞星供の護摩を修された星ヶ森の秘壇があり、鉄(かね)の鳥居は石鎚山の発心門として昔から有名であります。谷を越えて前方に石鎚の霊峰を望み、参拝者はここからモエ坂を下って登ります。(中略)横峰寺から頂上まで百二十町、旧石鎚本社の成就社まで八十町、星ヶ森を越えモエ坂三十町にて加茂川の谷に下り、再び登って黒川、成就社を経て頂上に達します。」と紹介されています。一般の遍路にとって、険しい霊山の石鎚山に登ることは容易ではないため、四国巡拝の途中で石鎚山を登拝(とはい)することは多くなかったと思われます。

江戸時代の幕末期、横峰寺を経由して石鎚登拝した際の日記が残されています。文久2年(1862)に今治藩医で国学者の半井梧菴(なからい・ごあん)の「石鎚紀行」です。梧菴は晩年の明治6年(1873)に石鎚神社の神官を務めています。
日記によると、5月27日、息子たち3人で今治を出立し、六軒屋で昼食、小松で一泊、横峰寺、石鎚山の遥拝所である星の森(鉄の鳥居)を経て、郷の坂(モエ坂)を下り、加茂川に架けられた高橋を渡り、黒川道の登山道を進み、下黒川村で昼食し、黒川宿で一泊。翌日、常住(成就)を経て篠原を下り、一の坂などを登り、夜明(よあかし)に到着。一の鎖、二の鎖、三の鎖を登り、5月29日に石鎚山頂に到着しています。梧菴は石鎚登頂の念願が叶って、その感動を「よ所にしてあふげば高しのぼり来て 見れば尊し伊予の高嶺」と詠んでいます。山頂では「文明」の年号銘のある銅製の祠の中の三体の銅製の御神像が祀られ、人々が御神像に触れるため手足がなくなり、子どもの玩具のようで尊さがなくなっていることを嘆いています。一行は銅製の狛犬などを見学後、下山して午後に下黒川村に帰着しました(今村賢司『愛媛面影紀行』愛媛新聞社、平成17年)。
半井梧菴の石鎚登拝は四国巡拝の遍路としてではなく、後に完成する伊予国地誌『愛媛面影』に「石鎚紀行」が引用されているように、本書編纂のための現地調査であったと考えられます。梧菴一行が通った今治から六軒屋を経由して横峰寺へ向かう道筋は、四国遍路の横峰寺道と重なるところが多かったと推察されます。また、横峰寺から星ヶ森を経由してモエ坂を下り、加茂川を渡り、黒川道を成就まで上り、石鎚山頂へと向かう道筋は、横峰寺からの石鎚登山の巡拝ルートを示しています。
テーマ展「石鎚山 歴史と民俗」では、石鎚山関係資料(「西條誌」「石鎚神社先達用記」、絵葉書等)、半井梧菴関係資料(肖像写真、「石鎚画賛」、『愛媛面影』等)、愛媛大学教授で地理学者の村上節太郎が昭和33年(1958)に撮影したお山開の古写真、江戸時代の四国遍路資料(「四国西国順拝記」「四国徧礼霊場記(写本)」等)など、館蔵資料を中心に紹介しています。
なかでも文化6年(1809)の「四国西国順拝記」は、京都の商人・升屋徳兵衛とその家族による四国遍路と西国巡礼の貴重な記録です。その道中日記は、徳兵衛が前神寺参詣後に急病となり、一緒に旅をしていた息子の妻が石鎚山の山中に分け入り、心願をこめて激しい坂道を5度も歩いたことで、仏神の加護により徳兵衛の病気が平癒したことが記されています。遍路と石鎚信仰の霊験を語る実体験としての事例として注目されます(井上淳「資料紹介 四国西国順拝記」『愛媛県歴史文化博物館研究紀要』第6号、平成13年)。
この機会に是非ともテーマ展「石鎚山 歴史と民俗」をご覧ください。











































