特別展「昭和子ども図鑑」でお借りしている山星屋コレクションの中から、おもしろいお菓子史料のいくつかを紹介します。
最初に粉末バナナ入りの「栄養保健菓子 ラクダ」を紹介しましたが、山星屋コレクションを見ていると、他にも体のためになりそうなお菓子のパッケージがいろいろと見つかります。次の史料もそのうちの一つ。
鯉の上に健康優良児のような子どもがどっしりと乗っかるなんとも大胆なデザイン。ところで、なぜ子どもは鯉に乗っているのでしょうか。それは、江戸時代からの伝統的なデザイン「鯉と金太郎」をもとにして、パッケージが描かれているからと思われます。金太郎は熊と相撲をとったりする元気キャラ。巨大な鯉をつかまえたという話しもあります。一方、鯉は天に昇って龍に変化するといわれており、鯉の滝のぼりには立身出世のイメージが重ね合わされています。そのため、「鯉と金太郎」の絵は、男の子の立身出世、健康の願いを込めて、これまでに多くの端午の幟(のぼり)にも描かれてきました。カル素のパッケージデザインは明らかに「鯉金」を下敷きにつくられています。カル素キャラメル食べたら、元気はつらつということですね。
そのパッケージに踊る文字もすごい。上に太鼓判ともいえる「各医学博士推奨」の文字。右に「造血菓子」、左に「血ノモト肉ノモト」とあります。なんて直接的なキャッチコピー。ちなみに、鯉は食べるといろいろと体に効く健康食品なんだそうです。その効能にはむくみをとって、血液の流れをよくするということもあげられています。ということで、「造血菓子」のパッケージにぴったりということになります。
ところで、この「カル素キャラメル」の中身がどういうキャラメルだったのか、調べても今一つわからないのですが、展示している健康をテーマにした他のキャラメルの中に、詳しく中身がわかるものが見つかりました。山星屋コレクションではなく、館蔵品のキャラメルパッケージですが、その名は「ボーイキャラメル」。
パッケージにはキャラメルをもつ西洋人の子どもが描かれていて、なかなかオシャレ。「カル素」とはだいぶん雰囲気が違います。一見パッケージからすると、ミルクキャラメルなんかが入っていそうな気もします。でもボーイキャラメルを裏返してみると、このキャラメルも健康志向キャラメルであることがわかりました。裏面には上の方に「沃度含有」という謎の文字が見えます。ちょっと長いですが、このキャラメルの正体を記した裏面の文章を読んでみましょう(旧字は新字、旧仮名と新仮名に改め、適宜句読点を補いました)。
弊社製菓部に於て発売するボーイキャラメルは、砂糖水飴煉乳バター牛乳等滋養品の外、我国独占の海産物たる昆布の其主要成分として多量に含有する沃度(ようど)を、弊社多年の経験に依り特殊の製法を以て之れを適度に昆入し、之(こ)れに「ピーナツト」を加味し調製したるものなれば、極めて滋養豊富なり。常に用れば身体の疲労を恢復(かいふく)し咽喉(いんこう)を整へ胃腸を調和し且根気を増す。殊に愛児に用れば体毒を駆除し其発育を助長し、身体を強健ならしむ。
猶弊社製品にして夙に抜郡(ママ)の優良品として好評を博しつつあるおいしいこんぶライオンス井ートと共に昆布工業のボーイキヤラメルと御指命の上御愛用の程特にお願致します。
製造元 大阪昆布工業株式会社
この裏面の文章によると、ボーイキャラメルは、砂糖、水飴、練乳、バター、牛乳などのキャラメルにありがちな素材に、多年の経験を生かして昆布から特殊な製法で取り出した沃土(ようど)とピーナッツを混ぜてつくられているとあります。昆布とキャラメル、ちょっとありえないコラボのように思えますが…。ボーイキャラメルの売りともいえる昆布に含まれている「沃土」とはヨードのこと。ヨードは甲状腺ホルモンの主原料で、子どもの場合、成長ホルモンとともに成長を促す働きがあるそうで、体になくてはならないミネラルとされています。ボーイキャラメルにどの程度の効果があったのかはわかりませんが、それなりの科学的根拠があったということになります。
造血のカル素に身体を強健にする沃土(ヨード)、この二つのキャラメルが販売されていること自体に、昭和初期、現代と似た健康ブームがあったことがうかがえます。ただし、現代とは違ってその背景には、「富国強兵」という国家的な要請があったことを忘れてはいけません。
ところで、調べてみると、現在でも北海道で昆布キャラメルが販売されていることがわかりました。甘さひかえめの普通のキャラメルのようだけど、後味に少しだけ昆布の風味が残るそうです。昆布とキャラメル、ミスマッチのように書いてしまいましたが、そういわれると、少し食べてみたい気もしてきます。


