怪人れきはく その光と影 第二話(三話完結)

2008年12月19日

 私の名前は「怪人れきはく」。本名はもう覚えていない。本当の名前など私には必要がないからだ。
 私の一番古い記憶は、神戸の港から母方の祖父母に手をひかれ外国へ向かう船に乗ったことだ。渡欧した初代「怪人れきはく」の足跡をたどるためドイツに向かったのは、1988年、昭和最後の年がまもなく終わろうとしている頃だった。
 あれから長い年月がたち、懐かしい故郷に戻って一番驚いたのは、私の愛する道具たちのことだ。飴色になるまで使い込まれた木の手触り、何度も研ぎなおし小さくなっていくにつれ増す金属の頼もしさ。
 あのいとおしい道具たちの活躍する場所はもうないのだろうか。私たちの手となり足となってくれた道具たちは今、どこにいるのだろうか。
 私は道具たちを探して、日本中を歩きまわった。時には丁寧に手入れされた道具に安堵し、時には今も重宝されている道具を見て快哉を叫んだ。しかし粗大ごみの日に道端に打ち捨てられている道具に涙することも多かった。修理するすべもわからず、すぐに新しい道具(それはもう機械と言えるかもしれない)を買う人々の姿にこぶしを震わせた。
 もう道具の居場所が消えつつあるのが現実なのだろうか。
 「知らない」ということ。「見たことがない」ということ。「使ったことがない」ということが、昔の道具を追い詰めているのではないだろうか。
 しかし、昔の道具に光を当てようとする動きもないわけではない。町の資料館や博物館、学校では昔の道具の仕組みや使い方に注目し、今も大切に保存されている。
 私の調査によると、近々E博物館で昔のくらしや道具を紹介する展示が行われるらしい。E博物館に恨みはないが、我輩の舞台に選ばせてもらおう。昔の道具の謎をめぐるスペクタクルの始まりだ。
 そう、挑戦状を送るのだ。

 つづく(このお話はフィクションです)