飴買い幽霊図(今治城所蔵)
子育て幽霊図(八幡浜市・個人蔵)
この2つの幽霊(ゆうれい)の絵をよく見てください。幽霊が赤ん坊をダッコしているのがわかるでしょうか?じつは、このような絵に関するものとして、次のような言い伝えがあります。
むかし、ある寒い夜、飴屋(あめや)に、白い着物を着た女が音もなく入ってきた。女は一枚の銭(ぜに)を出して飴(あめ)を買うとすっと消えるように帰っていった。女は次の日も、次の日も同じように飴を買っていった。
7日目の夜、女の手には一枚も銭(ぜに)がなかった。だまっていた女を飴屋はかわいそうに思って、いつもより多く飴をわたした。女はうれしそうにほほえむと、しきみ(仏さまに供える葉)を一枚置いて帰っていった。
いつもと様子が違うので、飴屋は気になって女のあとをつけた。すると、寺の近くでふっと消えた。すると新しいお墓(はか)の下から赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。墓を掘り起こすと、一週間前に身ごもったまま死んだ若い母親のそばで、飴を持った赤ん坊が泣いていた。
母親の首にかけられていた六枚の銭<六文銭(ろくもんせん)といって、あの世へ通じる三途の川(さんずのかわ)の渡し賃のこと>がなくなっていて、母親の幽霊(ゆうれい)が毎晩、赤ん坊に食べさせるために飴を買いに来ていたのであった。人々は母親の愛情の深さに心をうたれた。
赤ん坊は、そのお寺のおしょうさんによって育てられ、有名なお坊さんとなった。(このような伝説は、愛媛県内でも数ヶ所確認することができます。)
この子育て幽霊の話をもとに描かれた幽霊図は、単に「恐ろしい幽霊」というより、母親の愛情を表現した資料として見ることができます。