調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第41回
2019.3.20

柳宗悦が著書で「秀逸」

伊予絣の古布(「城と幾何」文様)

城と幾何文様が美しく表現された伊予絣の古布(一部)=明治時代、県歴史文化博物館蔵
 絣(かすり)とは、文様の周辺にかすれたような状態を見せた織物のことをいう。経糸(たていと)や緯糸(よこいと)は、藍などの染料に染まる部分と、糸括(くく)りなどで防染処理をして染まらない白い部分を作り、文様を織り上げる。
 絣の文様には絵画的な絵絣と、抽象的な幾何絣に大別され、それらを組み合わせることで多彩な絣文様が生まれる。伊予絣は、藍染めによる木綿絣が中心で、明治以降、着物、労働着、寝具などの日常的な衣料として広く用いられた。
 今回紹介するのは明治期の伊予絣の古布で、代表的な図柄として最も親しまれている「城と幾何」の絣文様が美しく表現されている。同じ図柄の古布を4幅縫い合わせていることから、来客用の蒲団カバーとして仕立てられたものとみられる。
 一般に伊予絣の文様は①太い線ではっきりと織り出す柄で文様がくっきりしている②やわらかな曲線とかすれの味わいがある③デザイン的に優れたものが多く大衆向きである―などの特徴がある。
 「民芸運動の父」と呼ばれる思想家の柳宗悦(やなぎ・むねよし)は著書「手仕事の日本」(1948年)の中で、次のように伊予絣の城文様を絶賛している。「何といっても秀逸なのは、松山城の図柄であります。日々見る郷土の風景を写し出したものとして忘れ難いものであります。下には松に囲まれた石垣を控え、上にはお城の建物が聳(そび)え、鯱(しゃちほこ)をもった屋根から、空を飛ぶ鳥に至るまで、よくも上手に織り出したものと思います」
 さらに柳は「吾々(われわれ)はもっと日本から生まれた日本のものを愛そうではありませんか。そうしてそれらのものを用いることに悦びを抱こうではありませんか」と結んでいる。
 愛媛の風土の中で育まれてきた郷土色豊かな伊予絣はこんにち、伝統的特産品として親しまれている。伊予絣の未来は、絣資料の保存、技術の継承、後継者の養成、商品開発など課題が多いが、伊予絣を愛して用い、その良さを発信することも大切である。

(専門学芸員 今村 賢司)

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