調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第52回
2019.8.28

緻密な鳥瞰図 活気映す

今治港図絵

㊤1934(昭和9)年に発行された今治港図絵。独特な構図で瀬戸内海一円が描かれている=県歴史文化博物館蔵
㊦今治港と周辺部分の拡大
 1999年5月1日に開通した「瀬戸内しまなみ海道」は、今年(2019年)20周年を迎えた。そこで今回は、しまなみ海道開通以前から、今治―尾道間を支えていた航路と今治港に注目したい。
 紹介する資料は、今治港が竣工(しゅんこう)した34(昭和9)年に、今治港務所から発行されたリーフレット「今治港汽船発着時間表 今治港図絵」である。片面には、今治港を利用する航路の発着時間や寄港地、接続情報、汽船の種類などが表記されている。
 最も便数が多いのは「尾道行」で、直行便や周辺諸島の港へ寄港する便など、1日16便が運航していた。他には「宇品行」が1日7便、「大阪行」が1日5便あるなど、今治港では1日14航路41便が運航され、各地へ人や物資を運んでいた。さらに、国内航路だけではなく、大連や天津へも、毎日ではないが運航しており、海外へもつながっていたのである。
 もう一方の面には、「今治港図絵」と題した青野初治による鳥瞰(ちょうかん)図が描かれ、「修築竣工記念」と「今治港」というスタンプが押されている。今治側から描かれた図絵は、吉田初三郎の鳥瞰図を模した独特な構図である。
 絵図の右下には、この鳥瞰図の中心となる今治港と、吹揚公園・今治駅が緻密に表現され、左下には佐田岬半島と「宇和島」という文字が見える。画面上部で目を引くのはやはり大山祇神社だろう。島々の中でもひときわ誇張されており、作者の青野初治はこの図絵におけるシンボリックな存在として描いたのだろう。
 さらに今治港からは、島々をつなぐ航路線が広がっており、多くの船が描かれ、当時のにぎわいが感じられる。基本は白線で表されているが、主要航路でる大阪や別府、尾道への航路は赤色で示される。また、海外の大連と天津航路は青色になっており、画面左上部に小さく朝鮮半島を見ることができる。
 県歴史文化博物館(西予市)の秋の特別展「瀬戸内ヒストリア」(2019年9月21日~11月24日)では本資料の他、瀬戸内海航路や観光に関する資料を展示する。ぜひご覧いただきたい。

(学芸員 甲斐 未希子)

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