調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第73回
2020.7.15

軍艦や兵器 多色で描く

雑誌「少年倶楽部」の付録

1940(昭和15)年1月1日発行号「少年倶楽部」の付録「帝国軍艦大画報」=県歴史文化博物館所蔵
 今回紹介する資料は、雑誌「少年倶楽部」の付録である。同誌は1914(大正3)年に大日本雄弁会(現講談社)が創刊した雑誌であり、少年たちはその付録を楽しみにした。1937(昭和12)年に日中戦争が始まると、付録も戦争を反映したものが多くなっていった。
 本資料は1940(昭和15)年1月1日発行号の付録で両面刷りとなっている。「帝国軍艦大画報」から見てみよう。長門・山城・金剛・伊勢などの戦艦、妙高・高雄などの巡洋艦、赤城・加賀などの航空母艦、そのほか本来は軍艦に属さない駆逐艦や潜水艦なども含めて、約300隻の艦艇がカラーで描かれている。
 本資料に圧倒されるのは、立すいの余地がないほど艦艇が描かれているためである。しかも、一隻一隻の艦艇が艦型を意識して描き分けられ、艦艇の種類や艦名を含め、多くの情報が記載されている。
 また、裏面には「帝国陸軍兵器大画報」として、戦車部隊、爆撃機・戦闘機などの航空部隊、榴弾(りゅうだん)砲・加農(かのん)砲などの砲兵部隊、給水・衛生などの自動車部隊、浮嚢(ふのう)橋や鉄舟(てっしゅう)橋を架ける工兵部隊など、約120種類の兵器がカラーで描かれている。
 裏面で目がひかれるのは、兵器の描き方である。滑走路や駐屯地に置かれた兵器を正面から整然と描くのではなく、方向や角度を変えながら、遠近法を用いたり、兵器を操る兵士を描いたりして、躍動感を創出している。
 当時の少年たちは、軍艦や兵器のイラストを見て、軍隊への“憧れ”を強くしたことだろう。戦争が長く続く時代、やがて少年たちは徴兵検査を受け、兵士として戦場に赴いた。しかし、そこで“憧れ”の兵士像を探すことは難しく、戦争の厳しい現実と向き合わなければならなかった。
 私たちは戦時資料を見るとき、当時の人々に共感しながらも、現在の視点で比較することが大切ではないだろうか。戦時資料が発するメッセージをどうすれば分かりやすく伝えることができるか。戦後75年の今年(2020年)、展示を行う者として、改めて自問したい。

(専門学芸員 平井 誠)

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