調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第16回
2018.2.26

自ら歩き聞き取り調査

外国人による四国遍路研究書

アルフレート・ボーナーがドイツ語で著した「同行二人の遍路―四国八十八ヶ所霊場」(邦題)=1931年刊、県歴史文化博物館所蔵
 本書はオーストリア人のアルフレート・ボーナー(1894~1958年)が昭和初期の31年にドイツ語で著した四国遍路に関する研究書である。
 ボーナーは22年に来日し、28年までの足かけ7年、旧制松山高等学校(現愛媛大学)でドイツ語を教えた。日本文化、とりわけ宗教に強い関心を持っていたボーナーは27年、夫婦で歩き遍路を行っている。
 本書はボーナー自らの遍路体験をもとに、聞き取り調査を行い、四国遍路の歴史、札所寺院、遍路の習俗、行程などについて、江戸時代の案内記なども用いながら実証的に詳述している。ボーナーは特に遍路の装束や巡礼用具(札挟み、納め札等)、御詠歌などについても論じ、西国三十三所巡礼との比較研究を行っている。また、納め札の収集も行なっている。
 さらに巻末の写真図版には、昭和初期の四国霊場の札所寺院の建築物、道中の自然や生業の風景、遍路の装束などが収録されている。
 愛媛の霊場では、40番観自在寺二王門の商人、41番龍光寺から分離された稲荷神社、42番仏木寺の牛王堂、遍路道沿いの道標石、43番明石寺の茅葺(かやぶ)きの熊野十二社権現社、51番石手寺を詣でたハンセン病患者、60番横峰寺の社殿様式の本堂、65番三角寺の鐘楼が付いた二王門などの当時の姿が写されている。
 四国遍路に関する昭和初期の研究書は少ない中で、ボーナーが著した本書は当時の四国遍路の実態を知ることができ、また外国人遍路の視線から見た四国遍路の先駆的な研究書としても注目される。
 なお、本書の翻訳「同行二人の遍路」が近年、大法輪閣から刊行されている。

(専門学芸員 今村 賢司)

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