調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第26回
2018.7.24

広重独自の石鎚山描く

六十余州名所図会 伊豫西條

歌川広重が描いた錦絵「六十余州名所図会 伊豫西條」=1855(安政2)年製作、県歴史文化博物館蔵
 パッと目を引く白い帆と、その奥に悠々とそびえる四国最高峰・石鎚山。画面半分を占める美しいグラデーションの空には、雁の群れが飛んでいる。これは歌川広重が描いた「六十余州名所図会 伊豫西條」である。手前にモチーフを大きく描き、奥に余白を持たせる構図は、広重が好んだ描き方だった。
 では、広重はどこからこの石鎚山を眺めたのか。実は、広重は自身の目で石鎚山を見て描いたわけではない。「山水奇観」という本を参考に、広重独自の視点を加えて描いたのである。ダイナミックに描かれた石鎚山や白帆とは対照的に、麓に広がる西条藩松平氏3万石の陣屋町は細かく仕上げられている。
 多色刷りの木版画は錦絵と呼ばれ、江戸時代に流行し広まっていった。錦絵は、広重のような絵を描く絵師だけではなく、木版を彫る彫師、そして紙に摺(す)る摺師が協力して出来上がる。絵柄によって色の数が異なるため、彫師は何枚もの版木を彫る必要があった。
 そして摺師は絵師の意図どおりの色合いを表現するために、精巧な技術で多くの色を正確に摺り分けていた。浮世絵とは、絵師・彫師・摺師の連携があってこそ完成する、非常に繊細な絵画であったといえる。
 当館では、浮世絵の事をもっと知ってもらいたいと思い、浮世絵摺り体験のイベントを実施している。広重の「伊豫西條」を、黄色・朱色・緑色・青色・黒色の樹脂製の版木を用いて、色が薄い順に摺り重ねて作成することができる。
 一色ずつ重ねるごとに絵柄が完成する様子は面白く、子どもだけではなく大人も楽しんで体験している。人によってインクの量や摺る力も異なり、その出来上がりは十人十色で見ていて面白い。
 また当館の特別展「夏の歴博 おばけ大集合!」(~2018年9月2日)の期間中は、毎週土曜日におばけの浮世絵を摺る体験イベントを開いている。ぜひこの機会に自分だけの浮世絵摺りに挑戦してもらいたい。

(学芸員 甲斐 未希子)

 本文中の浮世絵を摺る体験イベントについては、現在は学校など団体を対象とした学習支援プログラムとして実施している。

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