調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第64回
2020.2.26

軍服と礼服 忠実に再現

明治天皇・皇后の変わりびな

明治時代に京都の人形店で作られた明治天皇・皇后の変わりびな(後列中央)=1908年ごろ製作、個人蔵・県歴史文化博物館保管
 「うちのおひなさまはとっても変わったおひなさまなのよ」。調査前の情報はこれだけ。何がそんなに変わっているのか。疑問を抱きつつ新居浜市の所蔵者宅へ調査に伺った。
 ひな人形は1908(明治41)年、この家に生まれた長女のために京都で購入したものだという。早速倉庫に入り、木箱を取り出して開けてみた。木箱には京都の老舗「丸平」こと「大木平蔵人形店」製を示す貼り紙があり、包み紙をそっと外すと、なんとドレス姿の女性が現れたのだ。思わず歓声をあげると、所蔵者は「違う、これじゃない、もっと大きいから」と言うのだ。
 後で分かったのだが、最初に取り出したこの人形は両脇に控える女官だった。倉庫内を探すと、最初の箱と比べ4倍近く大きい木箱が見つかった。箱を開けて慎重に包み紙を外すと、平安装束姿のひな人形ではなく、軍服姿の明治天皇とドレス姿の皇后の人形が現れた。手を洗って触らないと、と慌てる学芸員を後目(しりめ)に「ほら、とっても変わったおひなさまでしょう」と所蔵者。
 明治天皇・皇后を模したひな人形のほか、明治天皇の五月人形は、明治20~40年ごろまで京都や大阪の人形店で作られて販売された。限定的に作られた人形であるため全国的にもあまり残っていない。その人形がなんと県内に伝わっていたのだ。
 明治天皇は高さ63cm、陸軍大元帥の正装姿、明治政府のお雇い外国人キヨッソーネの描いた御真影をもとに製作されていることが分かる。洋髪にティアラをつけた皇后は、菊の刺しゅうが施された裾の長い大礼服を着用している。洋装の礼服の決まり事をほぼ忠実に再現しており、細部にいたるまで丁寧に製作され、優美で格調高いたたずまいから洋装の有職雛(ゆうそくびな)ともいえる。このほか、洋装の女官2体、和装の衣裳人形4体を1セットとして飾っていたことが当時の写真から判明した。
 所蔵者のお話によると、この人形は当主のお気に入りで、誰にも触らせず、自らが飾っていたそうだ。当館に預けていただいてからは、毎年春のテーマ展で展示しているので、ぜひ多くの人にこの珍しい洋装のひな人形をご覧いただきたい。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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