調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第82回
2020.11.29

戸籍作成 国司の姿採用

国勢調査記念切手と記念章

第1回国勢調査記念切手と記念章。県歴史文化博物館蔵。
 今年(2020年)は1920(大正9)年に実施された第1回国勢調査から100年。そこで、その際に発行された記念切手と記念章を紹介する。
 1881(明治14)年に大隈重信の建議により統計院が設立、1902(同35)年には「国勢調査ニ関スル法律」が成立した。しかし、日露戦争などの影響で調査はたびたび延期され、1920(大正9)年、原敬内閣の時にようやく第1回国勢調査が実施された。
 これを記念して紫色の1銭5厘切手と赤色の3銭切手が発行され、基本的には国内での使用に限り、販売期間と使用期間は翌年3月31日までとされた。逓信博物館(現郵政博物館)の樋畑雪湖(ひばたせっこ、1858~1943年)が著した「日本郵便切手史論」(日本郵券倶楽部、1930年)などによると、東京帝室博物館(現東京国立博物館)の高橋健自(けんじ、1871~1929年)が時代考証を行い、樋畑がデザインをした。
 「日本書紀」に記述がある大化年間の戸籍作成の故事をふまえ、国司が戸籍を閲覧して署名しようとする姿をイメージしたようだ。「日本郵便切手史論」にはモデルが掲載されており大変興味深い。切手の文字は正倉院にある702(大宝2)年の戸籍より集字された。
 第1回国勢調査は、10月1日午前0時現在の①氏名②世帯における地位③男女の別④出生年月日⑤配偶関係⑥職業及び職業上の地位⑦出生地⑧国籍などの別が調査された。調査員は府県知事の推薦により内閣が任命し名誉職とされ、多くは地域の有力者が選ばれた。
 翌年にはその功績をたたえるため、第1回国勢調査記念章が事業関係者に授与された。デザインは「戸籍の巻物を手にせる大化年間の国司の立像」とされ、賞勲局が記念切手をもとにデザインし、東京高等工芸学校(現千葉大学工学部)の畑正吉(1882~1966年)が彫刻した。
 日本は、すでに近代国家として体制を整備していたが、国民生活まで正確に把握していたわけではない。国勢調査は、継続することにより過去と現在を比較し、将来を予測する重要な政策である。今回紹介した記念切手や記念章からは、国勢調査に対する政府の強い意気込みを感じ取ることができる。

(専門学芸員 平井 誠)

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