調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第100回
2021.8.26

人気の番外・旧跡伝える

大正時代の四国遍路地図

大正時代の四国八十八カ所霊場の案内地図。当時の遍路の巡拝ルートや人気スポットがよくわかる。
 大阪の駸々堂(しんしんどう)から発行された大正時代の四国遍路地図。本図は上方向を北とし、方位が記載されているが厳密な地図ではなく、四国遍路の全体像を分かりやすくするため四国の形がデフォルメされている。
 表面には、旧国名別に色付けをして、四国八十八カ所の札所名、本尊の略式御影(みえい)、巡拝の道筋、札所間の距離(里丁)、番外札所、名所旧跡、鉄道および停車場、電気軌道、道路、都市、宿駅、河川、灯台および海岸、港、上陸港と札始め・打ち留め情報などが記載されている。
 「四国参拝は順に一番より始めるも逆に八十八番よりなすも中途何れの札所より始めても随意」と記され、伊予(愛媛県)の上陸地は「八幡浜 豊後、日向以南、九州南部ハ凡て八幡浜に上陸が便利なり」「三津ヶ浜 九州北地方ハ五十二番の太山寺より始むるがよし」「今治 中国路は五十五番の南光坊より始むるがよし」と紹介されている。また、鉄道では伊予鉄道や1914(大正3)年に宇和島―近永間が開通した宇和島鉄道の路線が掲載され、航路や鉄道などの公共交通機関を活用した近代の四国遍路の姿が見て取れる。
 地図上で伊予の巡拝ルートを確認する。40番観自在寺から65番三角寺までの26カ寺の札所の他に、高野山仏眼院(愛南町)、龍光院、和霊神社(宇和島市)、出石寺、十夜ケ橋(大洲市)、文殊院、衛門三郎旧跡、道後温泉(松山市)、遍照院、高野山出張所(今治市)、臼井御来迎、日切大師、生木地蔵、清楽寺、石鎚山(西条市)、仙龍寺(四国中央市)などの番外霊場や名所旧跡が紹介され、当時の遍路の人気スポットがわかる。裏面には「四国遍路道しるべ」と題して、各札所で奉納する御詠歌と次の札所への距離が記され、遍路の実用に供している。
 本図は近代の四国遍路の実態を示し、昭和(戦前)の代表的な四国遍路地図として札所周辺の仏具店等で売られた「四国遍路道中図」に受け継がれた。

(専門学芸員 今村 賢司)

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