調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第109回
2022.1.9

戦場での無事 祈り込め

千人針のシャツ

日の丸模様が施された千人針のシャツ
千人針のシャツに結ばれた5銭と10銭
 今年は寅(とら)年。そこで今回は「千人針」を紹介する。寅(虎)と千人針にどのような関係があるのだろうか。
 千人針は日露戦争の頃に広まった弾除(たまよ)けのお守りである。「千」には「大勢」や「たくさん」という意味がある。通常は1mほどの横長い白布に、女性が赤い糸で1人一つ玉結びを作る。女性は愛する男性に千人針を贈って戦場での無事を祈り、兵士となった男性は贈られた千人針を腹に巻いて戦った。
 千人針は1人1針が原則だが特例が存在した。寅年生まれの女性は、年齢の数だけ玉結びを作ることができた。これは「虎は千里往って千里還る」の言い伝えにあやかったものと言われている。しかし、ほかの理由も考えられる。千人の女性に玉結びをお願いするのは簡単でない。早く千人針を完成させる方法として、干支(えと)の中でも強いイメージがある虎に特例を設けたのかもしれない。当時、寅年の女性は重宝されたという。
 では、本資料に注目してみよう。第1の特徴は下地と模様である。本資料ではシャツの背中側に日の丸模様の千人針が施されている。日の丸は大きくても小さくても不格好である。最初に鉛筆などで円周を描いていたのかもしれない。なお、千人針の下には社寺の御朱印が押されている。
 第2の特徴は千人針に結ばれている5銭と10銭である。死線(4銭)や苦戦(9銭)を乗り越えてほしいという願いが込められているのだ。
 戦時下の資料は平和の大切さを伝えるとともに、平和とは何かということを問いかけている。近年の新型コロナウイルス騒動を振り返れば、健康も平和な暮しに欠かせないことを痛感させられる。今年は寅年だが、60年サイクルの十干十二支だと、「壬寅(みずのえとら)」にあたる。それには厳しい冬を乗り越え、新しい成長の礎になるという意味があるという。今年が穏やかで平和な一年になるとともに、次の成長に向けたステップとなることを願いたい。

(専門学芸員 平井 誠)

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