調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第113回
2022.3.7

所狭しと並ぶ浮世人形

昭和初期の段飾り

昭和初期の段飾り。県歴史文化博物館蔵。
 当館では、毎年上巳(じょうし)の節句に合わせて江戸から昭和にかけてのひな飾りを展示している。
 江戸時代には内裏びなを飾って祝う節句行事が定着したと言われているが、江戸時代終わりには、祭りの要素が加わって華やかさを増し、飾る人形の種類が増えていく。
 三人官女、五人ばやし、随身、仕丁といった現在でもおなじみの人形たちだけでなく、歌舞伎の名場面など風俗を模した人形「浮世人形」も売り出され、数段のひな段をこしらえて人形を飾るようになった。
 今回紹介する段飾りは昭和初期のもの。ひな段には、上から御殿の中に内裏びなと三人官女、随身、五人ばやしとつづき、その下の段には、浮世人形や雛(ひな)道具を所狭しと飾る。若い世代には、ひな飾りのイメージとかけ離れた浮世人形たちが並ぶことに違和感があるようだが、昭和初期のひな飾りでは普通に見られる光景であった。
 3段目、4段目に並ぶ浮世人形たちは、親戚からお祝いで贈られたもので、女の子が誕生すると親戚たちは、お互いに贈る人形がかぶらないよう相談しあっていたと聞く。
 高砂―「尉(じょう)と姥(うば)」ともいう―は必ずといってよいほど並ぶが、それ以外は源義経や小野小町、太田道灌といった歴史上の有名人を模したものから、「舌切り雀(すずめ)」、浦島太郎、桃太郎といったおとぎ話の登場人物までバラエティに富む。
 また、着せ替え遊びのお人形からお土産でもらった小さくてかわいいものたちが続々と出てくることもある。家人たちが手持ちのかわいいものたちをひな段に総動員していたのだろう。
 現在では生活様式の変化などによりコンパクトなひな飾りが主流だ。時間をかけてたくさんの人形を並べる段飾りからは、節句行事を大切にするひと昔前の人々の暮らしが垣間見える。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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