調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第129回
2022.11.12

開閉で鳴る音 防犯目的

ハーモニカ箪笥

ハーモニカ箪笥(上)。大正時代頃。県歴史文化博物館蔵。下は引き出しを取り外した写真。内部にハーモニカのような器具が埋め込まれている。
 今回紹介する資料は、一見すると旧家などに残っていそうな普通の箪笥(たんす)である。しかし、ただの箪笥でないことは、引き出しを開け閉めするとわかる。「ファ~」という音が鳴るのだ。その音色は、ハーモニカに近い。そのため「ハーモニカ箪笥」の名前が付けられている。
 引き出しの奥にハーモニカの吹き口のような部分があり、空気が出入りすると音が鳴る仕組みになっている。ハーモニカは「息を吸う/吐く」動作で音が違うように、ハーモニカ箪笥も一つの引き出しの「引く/押す」の力加減で音が変わる。すべての引き出しで音が鳴るわけではなく、向かって左側部分の真ん中、三つのみ。下部左の引き出しには奥に非常ベルがあり、引き抜くと丸い突起部が押され大きな音が鳴り響く。音が鳴るのは、防犯目的であったといわれている。
 ハーモニカ箪笥は、普通の箪笥と比べて高価であるとか製作に時間がかかるわけではないが、空気がもれないしっかりとしたつくりでないといけない。愛媛で特徴的な箪笥というわけでもなく、大正時代頃に嫁入り道具として各地で人気があったようで、和歌山県立紀伊風土記の丘にも収蔵されている。
 本資料も、大正時代頃の嫁入り道具であったようだが、詳細は不明。扉の内側に残されていた銘により、製作は松山市内で現在も営業する家具店(当時は箪笥店)であることがわかる。娘の嫁入りに地元の家具店に発注して製作され、大事に使い込まれてきた。
 本資料のように幅が一間(約1.8m)ある大型の箪笥を「間箪笥」(けんだんす)と呼ぶが、現在の主流は四尺箪笥(約1.2m)である。日常着が和服から洋服に変わったことに加え、マンションやアパートの増加などライフスタイルの変化で、箪笥も次第に小さくなっていった。
 資料の面白さを伝えるには、文字だけでは限界がある。とりわけ今回のような資料は、実際にさわったり、体験したりすることで、面白さが倍増する。ハーモニカ箪笥は現在、民俗展示室2の復元家屋「山のいえ」に展示しており、小学校などの団体を対象とした「昔のくらし」のプログラムに申し込めば体験が可能である。機会があればぜひその音色をお楽しみいただきたい。

(専門学芸員 松井 寿)

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