(愛媛県歴史文化博物館では、常設展示室にて「愛媛の民話」を紹介するビデオコーナーを設けています。このブログでは、常設展示で紹介している民話(昔話・伝説)以外にも、愛媛に伝わる昔話・伝説などの口頭伝承を紹介したいと思います。)
※笠置峠から見た宇和の風景
まだ自動車道路がない頃の話。
前は宇和海、後ろを山に囲まれた港町・八幡浜の親子が、山側の米どころ宇和盆地にある山田薬師・花祭りに行こうとして、笠置峠を登った。
花祭りでは甘酒も振舞われて、近郷近在、多くの参詣者が歩いて集まってくる。
父親は何度か行ったことがあるが、息子は花祭りが初めてで、甘茶が飲めると聞いて、とても楽しみにしていた。
峠の頂に着いた瞬間、宇和盆地の景色が目の前一面に広がった。
平地の少ない八幡浜で育った息子は「とっと、宇和はがいに広いなあ。たまげた、たまげた。」と素直に驚く。
そこで父親は真面目に答える。「坊よ。たまげたらいけん。宇和もこんだけ広いけど、日本はなあ、この三倍も大きいがやけん、よう覚えとけよ。」
息子ばかりか父親も「井の中の蛙、大海を知らず」。ただ、息子は父親の言葉を真に受けて、少しは「世間」というものを知って、ひとつ大人に近づいたような気持ちになったとさ。
※文章は、当館が平成9年に八幡浜市向灘(むかいなだ)地区で聞き取りした話をもとに再構成しています。