調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第96回
2021.6.24

ユニーク家電 構造簡単

電気炊飯器「たからおはち」

「たからおはち」の外観(上)と内部の電極板(下)。1947年実用新案登録。県歴史文化博物館蔵。
 今回紹介する資料は、ユニークな家電製品。その名も「たからおはち」。「おはち」とは「おひつ」のこと。2002(平成14)年に企画展「昭和の街かど」を開催した際、県民の方から寄贈いただいた。
 構造は至って簡単。内底にくしの歯状の電極が2枚、互い違いに取り付けられ、電極につながるコードをコンセントに差すだけ。スイッチはない。純粋な水は電気を通さないが、電解質が溶けている水道水は電気を通す。ご飯が炊き上がり、電解質が溶けていた水がなくなると、電気が流れなくなる仕組みだ。しかし、本当にご飯が炊けるのか?
 エプロン姿の女性が描かれた解説書に記載された「富士計器株式会社」や「実用新案登録1495号」を調査したが、詳しい情報を得ることはできなかった。しかし、最近になって大阪市立科学館の長谷川能三学芸員が「たからおはち」を再現し、ご飯を炊いてみたという報告「電極式炊飯器とその再現」(『大阪市立科学館研究報告』23号、2013年)を知った。
 報告によると、1495号は願書番号とのこと。これではいくら調査してもたどり着くはずがない。特許庁のホームページで実際の登録番号359047号を検索すると、1946(昭和21)年に出願、翌年に登録、権者は「富士航空計器株式会社」の個人となっていた。当時、「環状板」や「短冊形」電極を用いた電気炊飯器は知られていたが、同型に打ち抜いた2枚の「波状板」電極を対向配置した「たからおはち」は、製作と取り付けが容易だった。報告には「普通の電気炊飯器で炊いたものと遜色のなく炊くことができた」とあり、意外においしく炊けるようだ。さすが宝の「おひつ」。機会があれば、当館でもチャレンジしたい。
 学芸員は資料を受け入れる際、可能な限り調査するが、情報は限られている。案外ふとした時に調査の進展に出くわすものである。これはあの時の資料!と気付くかどうか。資料の記憶と最新の情報を求める姿勢が鍵となる。

(専門学芸員 平井 誠)

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